こんにちは、のぐともです。
前回のブログでレッジョエミリアの教育方針について触れさせてもらったのですが、今回はそのレッジョエミリアの特徴の一つである"ドキュメンテーション"について、実際に私が実習中に行ったトピックを元に触れていきたいと思います。
前回話したように、レッジョエミリアは
- 普段の日常での子供たちや子供と教育者の会話などを含め、プロジェクト活動中の子供達の言動を事細かにメモや写真、そして動画として残します。それらを振り返り、今後どのように活動を発展させていけば良いか、などを話し合ったり、時には「子供達がどれほど有能であるか」を視覚的に明確にするツール (pedagogical documentaion/pedagogical narration) としてもこのドキュメンテーションは役立ちます。
- そしてこのドキュメンテーションは教師たちだけでなく、親御さんや子供の目にとまるところに展示され、みんなで一緒に活動を振り返り、その時の言動などによりさらなる議論や活動の展開に役立てます。
前回のブログ「レッジョエミリア教育」から一部コピー
まずこのドキュメンテーションを始める前に行う重要なこと
- 子供たちを注意深く観察し、彼らの関心や疑問を探ること。
ちなみに私が大学生時代に行った一つの実習先で子供達が毎日のように興味を示していたのが...
"Bad guys"
日本語で直訳すると「悪い奴ら」ですが、そう聞くとなんか違和感がすごいですね (笑) どこの国の子供達もそうだと思うのですが、小さい頃ってスーパーヒーローもの、例えばウルトラマン、アンパンマン、プリキュアや仮面ライダーなんかに憧れたりしますよね。そしてどのアニメにも必ずと言っていいほど良いキャラと悪いキャラがいるはずです。
子供達が頻繁に「BAD GUYS!」と口にするのも、悪役と善役に分かれて遊んだりするのも、こういったアニメの延長線上であり、当たり前のことだとは思うのですが、それにしても私の実習先の子供達は毎日と言っていいほど悪役キャラになったり、ダンボールを刑務所に見立てて遊んだり、レゴブロックで自分なりの銃を作ったり... かなりBad Guysに興味があるようでした。なので、私は残りの実習期間中はBad Guysにフォーカスを絞って子供達の観察を続けていくことにしました。
3週間、毎日の観察&分析ノートと毎週末のペダゴジカルドキュメンテーションとエッセイをひたすら頑張ってきましたが、その中でも私が特に改めて「子供って私たち大人が考えているよりもしっかりした考えを持っている」と思った事例をみなさんにもご紹介したいと思います。
きっと親御さんの中には「悪者ごっこや、銃を作って遊んだりするのって子供達のために良くないんじゃないの?」と懸念を示す方も少なくないと思います。だからこそ私のこのドキュメンテーションを通して知って欲しいのです。
子供達はきちんと物事や世界の仕組み、そして人間の複雑さを理解しています。そしてさらに、彼らはきちんと現実と遊びの境界線もわかっています。これらを明確にし、みなさんにいかに「子供達が有能であるか」を伝えることが私たち教育者の役割なのです。
まず最初に...
- 子供達の悪い人と良い人の認識の仕方
これはとても面白かったですね。ほとんどの子供が「悪い人は目が上がっていて、怒った顔をしている。だけど良い人はいつもニコニコしていて幸せそうな顔をしている」と答えました。これは確実にアニメや絵本、そしてメディアの”悪い人"と"いい人"のイメージが元となっていると思います。
では子供達はこれらのイメージがすべての悪い人、良い人に適用されると思っているのか?
答えはNOです。子供達はきちんと「例外」の区別もできるし、私たち人間の複雑さまで理解しています。
実際に私が体験した例を話します。
#Moment 1
Mくん (5) が教室内に飾ってあるボードを見つけました。このボードにはクラスメイトや先生たちの笑顔の写真が貼ってあります。
Mくん: 「見て!彼らはみんないい人だよ!だってみんな笑ってるもんね」
私: 「なるほど。それじゃあこのクラスに悪い人はいないってことになるね」
Mくん: 「うん、いないよ。あ、でも中には何人かいい人じゃない人もいるね」
#Moment 2
Mくん: 「いい人はみんな幸せなんだよ」
Aちゃん (5) : 「まぁ、でも悪い人も幸せになれるし、彼らだって笑うことはできるよ。しかも知ってる?悪い人は私たちを騙すことだってできるんだから!」
#Moment 3
(写真は重せできないのですが)水の入った容器に赤いフードカラーを入れて、いくつかの小さい容器を準備したりしました 。 子供達はそれを悪者を殺すための毒を作る工場に見立てて遊んでいたのですが、途中から悪者キャラの子たちと良い人キャラの子たち、どちらも参加し始めました。
私: 「あれ、ちょっと待って。よく考えたら今、良い人たちと悪い人たちが同じ工場で働いてるんじゃない!?」
Aちゃん :「そうだよ!私たちは良い人でもあり、悪い人でもあるの!」
私: 「それって可能なの?」
Aちゃん :「もちろん!私たちはどっちにもなれるんだよ!」
さらに、絵本を読んだ後のみんなでのディスカッションでは、子供達は「悪者が悪いことをするにも理由がある」という考えを生み出しました。
#Moment 1
絵本"3匹の子ブタ"を読んだ後に私たち先生が質問をして、子供達の考えを広げます。
先生: 「このストーリーの中に悪い人はいる?」
子供みんな: 「おおかみ!」
先生: 「どうして狼が悪者なの??」
子供みんな:「豚を襲ったからー!」
先生:「うん、たしかに。でもなんで狼は豚たちを襲ったんだろう?」
Kちゃん (3) :「狼はね、すーっごくお腹が空いててどうしようもなかったんだよ!!豚を食べるしかなかったの」
Hちゃん (5) :「それにね、狼はずっとひとりぼっちで寂しかったんだよ」
#Moment 2
私:「森にいる全ての狼が悪者なのかな?それともこのお話に出てくる狼だけが悪者?」
M&Tくん (5):「全ての狼!」
Nちゃん (4):「違うよ!他の狼は豚を襲わないよ!これはただのストーリーだもん。現実では狼は豚を襲わないし、理由なく襲うことなんてないよ!」
#Moment 3
今までは「いい人が悪者を殺す」という遊び方しかしなかった子供たちが3匹の子豚のディスカッションを通して、自分たちの考えを深めていきました。
Aちゃん (5): 「見て!狼(折り紙)を閉じ込めた!」
私:「どうして閉じ込めちゃったの?」
Aちゃん:「悪者だから!」
私:「悪者を閉じ込めるとどうなるの?」
Aちゃん:「良い人になるの!」
Mくん (5):「この麻酔銃で打つこともできるよ」
私:「じゃあ悪者は死なないの?今までは殺そうとしてたけど」
Tくん (5) :「殺さないよ!だって悪者も良い人になれるから!」
私:「君は先週、悪者は生まれた時からずっと悪い人だって言ってたよね?考えが変わったの?」
Tくん:「うん。悪者もいいひとになれるし、いい人も悪い人になれるんだよ」
子供たちは3匹の子供のストーリーのディスカッションを通して…
- 悪いことをする=常に悪者ではなく、悪い事や悪者にも何かしら理由や原因がある
- 悪い人も良い人もその人次第でどちらにでもなれる
という新しい考えを生み出し、私に示してくれました。
実習期間は4週間しかありませんでしたが、子供たちの"BAD GUYS"への考え方を深く知ることができましたし、何より「悪者ごっこって子供達のために良くないんじゃないの?」と懸念を示す方々へ、子供たちは有能であり、きちんと現実と遊びの境界線が分かっている例として証明できたのではないか、と思います。
子供というのは大人が考えているよりも、きちんと物事や世界を理解しています。子供だから、と言ってむやみに探索の範囲を狭めたりせず、一緒に色々な疑問や興味のあることを深く掘り下げていきたいですね!
のぐとも